← 反町恭一郎
nine questions / 発注のかたちを決める前に

場のデザインに役立つ
九つの問い

交流会、ワークショップ、カンファレンス。人が集まる場を外に頼むとき、この九つに答えが出ていれば、誰に頼むにせよ要件定義がしやすくなります。

逆に、ここが空欄のまま相見積もりを取ると、各社が違うものの値段を出してきます。イベント会社はイベントを、制作会社は制作物を、広告代理店は広告を。悪気はなく、それが各社の商売だからです。

社内の合意も早くなります。私に頼まなくても使えるので、稟議にも、他の会社への発注前のヒアリングにも、そのままお使いください。

  1. 01ゴール

    何がどうなったら、この事業は「勝ち」ですか。

    最大の理想と、下回るとまずい最低ラインの両方を、言葉にしておきます。企画書の文言より、担当者としての本音のほうが役に立ちます。

    重要なのは「イメージ」です。起こしたい光景を、ありありと描けるか。そのイベントが終わったあとに、誰がどんな表情で、何と話しているか。説明(explanation)ではなく、描写(description)として書いてみてください。

  2. 02目的

    いちばん大きい動詞は何ですか。そして、小さいと決める動詞は。

    「交流会」「勉強会」は集まりの種類であって、目的ではありません。目的は動詞で出てきます。よい集まりでは八つとも少しずつ起きているので、選ぶのではなく、それぞれに0〜5で強さを振ってみてください。

    つながる学ぶ渡すつくる決める探る祝う癒える
    例:送別会。「渡す」と「祝う」が大きい。学ぶ・つくる・決めるはほぼ0でよい、と決められる。
    つながる学ぶ渡すつくる決める探る祝う癒える
    例:部門のオフサイト。「決める」と「探る」が大きい。祝う・渡すを削って、時間を空ける。

    三つ以上を同じ大きさで置くと、講義は駆け足に、議論は尻切れになります。「これは小さくていい」と決めた動詞があると、当日やらないことが決まり、時間に余裕が生まれます。関係者それぞれに振ってもらえば、目的のずれがその場で見えるので、会議が一回減ります。

  3. 03背景・必要性

    なぜ「いま」なのか。その話を、誰に聞いてほしいですか。

    統計と課題認識の羅列ではなく、招かれた人が「自分に関係がある」と思える背景になっているか。そして、その話をいちばん聞いてほしいのは誰か。物語と相手は、一緒に決まります。語る相手の顔が浮かばないうちは、まだ物語になっていません。

    「あったらマシなこと」と「必要なこと」は違います。その必要性が認識されると、そのイベントは集客や動員ではなく、参加への招待になります。その想いで、イベントの熱量はまったく変わります。

  4. 04人選と規模

    誰を招き、誰を招きませんか。

    これは集客リストではありません。実現したいゴールのために、あなたが助けを求めたい人は誰でしょうか。名簿を眺める前に、三つの顔を思い浮かべてみてください。

    • 乾いた薪あなたが種火だとしたら、いちばん早く火がつくのは誰か。共感して、力になってくれそうな人です。ここが薄いと、どれだけ人数を集めても場は燃えません。
    • 顔を通しておく人中身に加わらなくても、先に一声かけておくべき人。ここを飛ばすと、あとで進まなくなります。
    • すでに場をひらいている人同じ領域で似たことをしている人は、招く相手ですか、一緒に立つ相手ですか。
    • 招かない人/お引き取りいただく場合「どなたでもどうぞ」は、やさしいようで、実は誰も守っていません。この場では何をしないか、どういう姿勢の方には向かないかを先に書いておくと、来た人が安心して本音を出せます。敷居は、排除ではなく安全のためにあります。どう伝えるかは、次の05とセットで決まります。

    人数も、ここで決まります。「採算上50人」と先に決めるのではなく、03で決めた物語と相手から逆算する。何人来たかより、誰が来たかのほうが、あとに残るものを決めます。すでに場をひらいている人を「一緒に立つ相手」にできれば、事業が終わったあとも動きが続きます。

  5. 05参加のしかた(コンセプトと敷居)

    この場のコンセプトを、一言で言うと何ですか。

    たとえば「レストラン」と「バーベキュー」。どちらも人が集まって食べる場ですが、世界観が変わります。参加者が「お客さま」として来るのか、「創り手」として来るのかが変わります。たとえば、肉が焦げたことが事故になるのか、思い出になるのかまで、当日の体験の質を変えてしまいます。

    「レストラン」なら

    用意されたものを受け取る。
    持ってくるものは、とくにない。

    「バーベキュー」なら

    持ち寄る。手を動かす。頼まれる。
    失敗も、その場の一部になる。

    04で決めた敷居は、ここで「参加の約束」として言葉になります。

  6. 06成果

    何を「成果物」としますか。

    人の関係性やマインドセットを扱う仕事だからこそ、何が成果なのか、それをどう記録して評価するかを、あらかじめ定義しておく必要があります。ここがないと、撮るべき写真や動画、報告書に何をどう書くかなどで、あとから混乱や「でっちあげ」が生じやすくなります。縦に「一人ひとり/全体」、横に「無形/有形」。この四つに分けて、それぞれ一行ずつ書いてみてください。

    一人ひとり INDIVIDUAL 全体 COLLECTIVE 無形 INTANGIBLE 有形 TANGIBLE 一人ひとりに、どう感じてほしいか? 目的意識、感情、自信 一人ひとりに、何をしてほしいか? 行動、ふるまい 集団の文化は、どうあってほしいか? 対立、協働、信頼 集団として、何を生み出すか? 成果物、指標

    Framework by Chris Corrigan(ケン・ウィルバーの四象限にもとづく)

    ここは、この9つの問いのうち少なくとも三つと連関している必要があります。01のゴール、03の背景・必要性、04の人選と規模が明確だと、カメラマンやライターも、どの瞬間に注意を向ければいいのかを事前に準備できます。報告書も、終わってから素材を探すのではなく、当日集めながら書けるようになります。

  7. 07運営チーム

    終わったあと、運営チーム自身は何を得ますか。

    参加者の満足度が高くても、つくった側が疲弊して終われば、その事業は続きません。

    ここを設計しておくと、来年の担い手が確保できます。毎年ゼロから人を探さなくてよくなる、というのがいちばん大きい効果です。

  8. 08分担

    外に委ねる範囲は、どこからどこまでですか。予算と契約の形は。

    人が集まる場をつくる仕事は、少なくとも六つに分かれます。ここが曖昧なままだと、あとから「当然やってくれると思っていた」「そこまでは含んでいなかった」が出てきます。持ち出しになった側は次から慎重になり、頼んだ側は物足りなさが残る。どちらも悪くないのに、関係だけが少し冷えます。

    • 企画設計・プログラム開発
    • 広報・集客
    • 当日の進行
    • 会場・物品の手配、運営実務・スタッフ
    • 記録・撮影・発信
    • 事後のプラットフォーム

    先に線を引いておくと、見積もりが比べられるようになるだけでなく、当日「これは誰の担当か」で止まることがなくなります。自分たちでやると決めた部分にも、ちゃんと人と時間を確保できます。

  9. 09前提

    この集まりについて、私たちが疑っていない前提は何ですか。

    基調講演は要る。100人は集めたい。去年と同じ形で。——長く続いた事業ほど、こうした前提が点検されないまま残ります。

    オーバースペックな発注は、たいていこの棚から生まれます。前提をひとつ手放すだけで、予算にも時間にも余裕が生まれます。その余白を、いちばんやりたかったことに回せます。

この九つは、講座テキスト『人が集まる場をどう設計するか』の付録です。ひととおり答えを出してみて、埋まらないところがあれば、そこがいちばん話し甲斐のあるところだと思います。

一緒に埋めるところから、お手伝いすることもできます。

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